
【体験談】My Story
UP
トイレで号泣事件
耳鼻科受診を続けつつ、耳のつまりは一進一退で、状況はどんどん悪くなっていく一方でした。
毎朝、なんとなく重い体を起こす。朝ごはんを食べて、会社に行く。
会社では、原稿のチェック、打ち合わせ、連絡と調整、人の手配が山積み。サクサクとこなしていきたいのに、持ち込まれるのは、工程に余裕のない、ギリギリのスケジュールの案件ばかり(と、当時感じていました)。
「このスケジュールで、どう進めようと思っているの」
「早く資料を出して」
「もう校了時間過ぎているよ。確認の返事はいつなの!」
私は、常にイライラしていました。眉間にしわが寄ったまま、午前中が、午後が、夕方が、夜があっという間に過ぎていきます。
ある日、事件が起きました。
私が原稿チェックを担当した広告記事に、表現上のミスが見つかったのです。担当したライターも、チェック係である私も、クライアントも、その窓口である営業担当のAさんも見逃していましたが、送稿前に最終チェック担当者が見つけたのです。急いで直して、もう一度クライアントに確認すれば間に合うタイミングではありました。
ほかのギリギリ案件で頭がいっぱいだった私は、Aさんに話し、直して確認して、さっさとコトを済ませたいと考えました。そこで、Aさんに、謝ることもそこそこに「どうする?」と聞いたのです。
その態度に、Aさんはキレてしまいました。
「どうするって、そもそもそっちのミスですよね?」
「まあ、そうだけど…」
「どうしてくれるんですか」
「…」
「まあ、そもそも期待していませんから」
Aさんは吐き捨てるようにいいました。
私は、ぐっさり、ナイフで刺された気がしました。
だまって席に戻ります。座ったとたん、くやしさが、怒りが、悲しさが、涙とともにどっとあふれてきました。
私はあわててトイレに走りました。個室にかけこみ、便器に伏せて、こみ上げるまま嗚咽しました。
一生懸命やっているのに!
一生懸命やっているのに!
「一生懸命やっているのに」、そのあとの言葉はいろいろです。
周囲の人は協力してくれない。わかってくれない。仕事が終わらない。疲れてばかり。調子が悪い。休めない。苦しい。
感情に身を明け渡して、私はしばらく、嗚咽をほとばしるままにしました。
しばらくすると、どこかで冷静な自分がささやきました。
「私、どうしちゃったの? 別の人になっちゃったみたい。なんかおかしい…」
誤解のないように、補足します。たしかに所属していた部は、社内でも仕事の種類も多く、忙しい部署ではありました。けれども「ギリギリ案件ばかり」とは、実は当時の私の感じ方。ちゃんとスケジュール的に余裕がある仕事も多数ありました。
またAさんとのやりとりのようなことも、程度の差こそあれ、これまでにも少なからずあったこと。長く働いていれば、どんな職場でも、いさかいは全くないわけではないでしょう。少なくとも、以前の私なら、その場で怒ったり、悪いと思えば謝ったり、上司に仲裁してもらったり、決してクールではないにせよ、それなりに対処して済んでいたと思います。
でも、このときの私は明らかに反応が過剰でした。
そう、これは典型的なうつのサイン。
うつに陥ると、「別人格化」という現象が現れます。それは、疲れ切った自分を守る仕組みなのだとか。ただし、当時の私はわけもわからず、ただ自分がおかしいことに不安になりました。
「会社を辞めたいです…」
この事件のあと、私は、上司に、そうもらしました。
少し唐突に聞こえるかもしれませんが、もともと、いつかは会社を辞めて、フリーでやっていきたいとはばく然と考えていました。けれども、このときの「辞めたい」は、夢やビジョンではありません。「もう疲れた。何も考えたくない」というネガティブな意味合いでした。