私のうつ最短回復ストーリー
【体験談】My Story
vol.12
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感情のつかえをとるレッスン

年末の大きな落ち込みを経て、年明けは比較的おだやかな日々が続きました。家事。読書。親友とのランチ。ウオーキング。天気の良い日に冬の公園を散歩すると、ホッと安らいで、長い夢から覚めたような心持ちがしました。でも、ときどき妙に疲れたり、気持ちが落ち込むことも。体と心の調子のさざ波をやり過ごしながら、日々を過ごしていました。

1月、3回目のカウンセリング。「経過は順調」とされながらも、二つの宿題が出ました。一つは体を動かしたり、適度な運動を始めること。もう一つは、ある出来事についての気持ちの整理をつけることでした。出来事とは、職場で発生した、ごくささいなこと。でも、初回のカウンセリングから、そのことを話しつつも口が重かったのを、下園先生は見逃していませんでした。出来事の詳細はあえて書きませんが、話そうとすると、たちまち、ブラックホールに入ったように何も感じなくなる。説明する言葉がなくなる。そんな感じでした。

「そのことを思い出そうとすると、急に何も感じなくなるんです」

「つまり、つかえているということでしょう。つかえているというのは、うつの回復の妨げになるんです。次回までに、自分の気持ちを整理してみてください」

気が進まない作業でした。でも、避けては通れないのだな、ともわかります。「とにかく早く治りたい」、その一心で、勇気を出して取り組むことにしました。

結論からいうと、気持ちの整理は「大成功」。次のカウンセリングで「よく出来ました! いやあ、出来過ぎなくらいですよ」「すばらしいですよ」と、下園先生とSさんが手放しでほめてくれるという結果になりました。スッキリ!という劇的なものではなかったので、あまりに二人がほめてくれるのが不思議な気さえするほど。

1カ月の間に取り組んだことと、その経過は次の通りです。

①その出来事を思い出す努力をする

②すると、思い出すよりも前に、みぞおちに、何か”かたまり”のようなもの、こわばりを感じる

③思い出すのをあきらめ、そのかたまりに手を当てる。下園先生の著書に紹介されていた「フォーカシング」という手法を見よう見真似。フォーカシングとは、自分が感じている何らかの嫌な思いに、しっかり向き合う技法。みぞおちの”かたまり”に手を当てながら、鉄の塊、かたまりちゃん、など「名前」を考えてみる。名前をつけようとすると、また”かたまり”がねじれて盛り上がるような感じ。手を当てて、溶けるようにイメージしながら、呼吸をゆっくりする。そのうち寝てしまう(出来事に向き合うという作業は、夜、布団に入ったときが一番集中できた)

④③が数回あって、そのうちに、出来事について少し具体的に考えられるようになった。なんでもいいよ、何でも感じていいよ、と自分に言い聞かせる。最初出てきたのは「悲しい」。次が「怒り」。

⑤数日間、その出来事について思いをめぐらすと、出てくる感情は変わらず「悲しい」と「怒り」。あえて感じたら感じっぱなしにしておく

⑥あるとき、出来事の、これまでと全く違う「別の観点」が出てきた。その観点から出来事に向き合うと、思いがけず「私も悪かった」という思いが発生。同時に「申し訳ない」という気持ちも出てきた

⑦数日すると、その出来事のプラス面が見えてきた。「あの出来事はなかったほうが良かったか?」と自問すると、心の回答は「ノー」。明快だった。

⑧2週間が経つころ、急に娘の用事で忙しくなってきた。そのことで頭がいっぱいになって、だんだんその出来事を思い出しても「どうでもよくなってきた」

⑨1カ月が経ち、明日がカウンセリングという日。気づいたら、その出来事を考えても、みぞおちの”かたまり”が現れないことに気付いた(いつから消えていたのだろう?)

⑩カウンセリングの日。①~⑨の経過を話した。「悲しい」「怒り」「申し訳ない」。すべての気持ちはまだ自分のなかにあるけれど、いずれもものすごく小さくなっていた。

1カ月の経過は以上でした。

自分がこの出来事に対して、結論が出たという感覚はありませんでした。ただ、いろいろな気持ちが、現れては消えていった、それだけです。むしろ結論が出ないので、カウンセリングで何かアドバイスや指導があるのかな、と思いました。けれども結果は上々。これこそが「気持ちを整理する」ということだったのです。

感情とは波のようなもの。喜びも怒りも悲しみも、発生を止めることはできません。それは自然に盛り上がり、いずれ、おさまります。おさまれば、それは「どうでもよくなる」。そのくらいさりげないことでした。

ただし、この作業をする前、出来事を思い出そうとすると「何も感じなくなる」という現象がありました。これは、ヒトがショックを受けた後に、その衝撃から自分を守るための脳の仕組み。これもまた、自然の摂理だそうです。「思っているより、ヒトの体はかしこいんだなあ。私にもちゃんと機能したんだ」と、感心することしきりでした。

ちなみに、なぜ人はうつになってしまうのか。その理由について、「感情の過多によるエネルギーの消耗」があげられると、下園先生は各著書で紹介しています。ごくかいつまんでいうと、過酷な環境のなかで、食べ物を確保できなければ死ぬしかなかった原始人。不安や恐怖、怒りを含め、「感情」は命を守る大切な仕組みでした。簡単に食べ物を確保できる現代になっても、私たちはその原始人のDNAのまま生きているのです。当然感情は過多になる。それに振り回されてしまう。そんな理論です。

「悲しい」「怒り」。その感情もまた、私を守ろうとした”仕組み”でした。無視しないで、このエネルギーと上手に向き合い、処置すること。今後うつにならないためには、避けてとおれないレッスンとなりそうです。

【補足】今振り返ると、この時期、この方法を自己流で試して上手くいったのは、「ビギナーズラック」に近かったかもしれません。その後、体調が悪かったり、気分が乗らないときに、早く解決したくて無理に取り組んでも上手くいかないこともありました(そんなときは直ちに辞めました)。また、感情の処理の手順は「感情ケアプログラム」でトレーニングすることも可能です。興味、関心のある方は受講されるのもオススメですよ。

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