うつ状態からの回復体験談
【インタビュー】Interview
vol.3 N.N.さん
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UP

手が震えたクライアントのパワハラ体験
「今は睡眠が一番のクスリです」

プロフィル

名   前 :
N.N.さん 
年   齢 :
40歳 
現在の職業 :
デザイナー、週末ヨガ講師 
趣   味 :
ヨガ、睡眠 
メ   モ :
フリーのデザイナーとして独立をした3年目、32歳のときに、うつ状態を経験。現在はデザイナーとヨガ講師であり、また、5歳と2歳の男の子のお母さんでもある。
 

−いつ、どんなふうにうつ状態を経験されましたか?

もうすでに8年くらい前の話なのですが…。デザインの仕事でフリーになって2年目くらいに、すごい仕事が増えたんです。忙しくしていたのですが、3年目に入ったときに、ある仕事のクライアントの、パワハラというかモラハラがすごかったんですよ。

−どんな感じだったんですか。

ほかの仕事も抱えているのに、こちらの都合は一切聞いてくれなかったんです。仕事量もすごくて、土曜、日曜も働かなくてはいけないし、その人の都合に全て、合わせなくてはいけなくなって。あるとき「全部俺に合わせてくれないと、仕事なんかやっていけないんだよ」と言われたんです。そうなの?って、ガク然としてしまって。そこから急に胸騒ぎがして、その人と仕事をすることが怖くなってしまってんです。

−胸騒ぎというのは?

胸がザワザワするような感じです。心が落ち着かなくなりました。その仕事は規模も大きくて、半年をかけてやるような案件。「あなたはデザインだけではなくて、設計図も見られなくてはダメ。設計もちゃんとやるように」と言われたんです。でも設計のことまでやる時間はなくて、「設計関連の作業の打診も受けてないし、デザイン分野とはかけはなれているので、その部分はフォローしてもらいたい」と言ったら、ダメと言われました。それでも最初はなんとかやっていたんですけど、だんだん夜寝られなくなってきて。その仕事を抱えていること自体が嫌になってしまったんです。でも、なんとかやっているうちに、今度は手とかも震えてくるようになってしまった。

—手が震えるのは、不安になりますね。

この仕事をするときだけ、手が震えるんです。ほかの仕事は一応出来たのですが「そのうち、ほかの仕事も出来なくなってしまうかも」って、どんどん自信がなくなってきてしまった。「ヤバイ、これはもう命を奪われる」って思いました。

—そのあと、どうしましたか。

設計はやめて、とにかくデザインの部分だけフィニッシュさせました。それで、データを全部CDに入れて、納期よりも前に、会社の郵便ポストに入れたんです。「私はもう無理です。このままでは病気になってしまう。あとはお願いしていいですか。勝手ですみません」って、手紙をつけて。もうその人に連絡をしたくないし、会いたくないから、そのクライアントと縁を切ってしまったんですね。そのあと、その当人ではなく、社長から「ごめんね。落ち着いたら、また別の仕事やってほしい」という電話をいただきました。実は、その人は、会社内でも“困った人”で、社長や周りの人はわかってくれていたんです。でも、「身勝手な仕事の投げ方をしてしまったから、もう会えません」って答えました。

—体調はその後どうなりましたか?

前後関係は覚えていないのですが、とにかく寝られなくて、体調も良くならなくて、病院に行ったんです。精神科の先生に「この仕事をしようとすると、涙が止まらなくなって、手が震えるんです」って話しました。そうしたら、先生が「死にたいですか?」って聞いてきたんですよ。思わず「全然死にたくないです! こんなことで死んでいられないんです、私!」って、答えました(笑)。そうしたら、「あなたはうつ病ではないですね。でも、うつになりかけているから、ちょっと薬とか飲んでみれば」って。あんまり薬を飲みたくない、薬漬けになるのも怖いと話したら、「ではちょうど治験をやっているから、それをやってみませんか」ということになって。「じゃあ、よくわからないけれど、それでやってみよう」ということになったんです。

−治験はどんなものだったのですか。

説明を聞いたら、一つは新薬、一つは既存の薬、一つは空っぽの薬と、3つ飲むものでした。2日間やってみたけど、実験的過ぎて、逆に不安になってしまった(笑)。3日目に、「すみません、やっぱりできません。どうせ飲むなら、短期間しっかり飲んで休みたい」って話して、今度は普通に、比較的軽いものを処方してもらいました。1カ月くらい飲んだかな。最初は眠たくなってあまり調子が良くなかったのですが、だんだん元気になって来て、そのうち寝れるようになりました。

−もう大丈夫かも、と思ったのはいつ?

3、4カ月後くらいでしたね。元気になったのは、ゆっくり、ゆっくりだった気がします。

−今、もしその時のパワハラのクライアントがいたら、どう対処しますか?

今度は逃げないように、違うアプローチをするかな。誰かに助けてもらえるように、一人で抱え込まないようにすると思う。仕事内容、人間関係で危ないときは、誰かに「危険かも、ヤバイかも」と伝えておく。仮に一人で対処するにしても、誰かが守ってくれるという気持ちがあれば、結局一人でできるかもしれないし。会社だったら、いろいろな人がいるから、助けを乞うことができますよね。フリーだったら、その仕事を断る。あの後「自分が悪かった部分もあるのかな」と考えることもありましたが、やっぱりそうは思えないんですよ。その反面、100パーセントやりきれなかったことに後悔しています。

−その体験の後は、順調でしたか?

その後、決定的にダメになったことはないですね。産後はノイローゼっぽくなりましたが…。それまで自分の時間しかなかった人が、急に子どもの時間しかなくなったので、自分がついていけなくて。最初うまく波に乗れなかったんですけど、子どもの成長と共に大丈夫にはなりました。私の場合は、育休後働き始めたことで、バランスが取れましたね。今は、新しいことがやりたいけれど、仕事と育児と家事とで、なかなか時間が割けないことが悩みですが。

−今気をつけていることはありますか?

気をつけているというか、私、とにかく寝ることが好きなんです。すごい寝ますよ。毎日子どもと一緒に10時には寝て、朝6時に起きる、というルーチンを絶対崩さない。疲れちゃうとダメだから、その方が生活しやすい。本当は8時間のうち2時間を勉強とかにあてたらいいんでしょうけど、寝たいんです(笑)。寝るのが安心、一番のクスリですね。


回復のオトモ

最初の育児で大変だったころに助けられていた本です。優しい文体で、心の弱さ、のようなものも出してくれている。“直感”で育児をしていた新米ママの私は、ばななさんの直観的な文章に励まされていました。読んでいると気持ちがゆったりします。


人生の旅をゆく(よしもとばなな・NHK出版。幻冬舎文庫もあります)

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